ALL I KNOW


ふとした夜に肩を寄せた。
追って次の夜に唇を寄せ、また追って肌を寄せた。
実にスマートで、不実で不自然なはじまり。
ナルトに合わせる顔がないなぁ、と言いながら顔色ひとつ変えず教え子たちと任務に赴くこの上忍は、本当に読めない男だ。
よく笑い、よく眠り、しばしば無言で一夜を過ごす。
その不規則な性格に慣れるくらいには共に居て、それを日常と思えるほどには過ごしていない。
良く言えば未だミステリアス、正直に認めれば未だ恋人未満。
彼を自分のものにする自信があるか、と聞かれれば、首を傾げるに留まっている。

そう考えて首を傾げたイルカに負けず首を傾げて、問題の上忍本人が表情を覗き込んできた。
互いに手にした銚子は空になっていて、代わりに体に残るアルコールに多少ふらつく。
酔いか甘えか表情を緩ませたカカシは、にたりと笑って突然こう言った。

「先生からは嘘の匂いがしませんね」

極めて上機嫌な笑み、を装って、何か探りを入れている。そんな表情だ。
日頃隠されている口元を見慣れれば、雄弁に表情を語っていた。
平静を装ってじっと見つめ返しながら、さらりと返す。

「不満ですか?」

それをどうとったのか、そうじゃないけど、と短い否定。

「不満じゃないですけどね、怖いんですよ。だってあなた、本気で俺のこと好きでしょう?」

疑いのないその傲慢。
否定など考えてもないそれはけれど事実で、彼の思う通り否定などするはずもない。

「いけませんか?」

「だからね、怖いんですよ。あなた、本気だから。」

「えぇ、本気です。いけませんかね?」

要領を得ない緩んだ頬はその一方隙がなく、明らかな意図を持って笑っている。
いつものことながらその目的を捉えられず、よってミステリアス兼恋人未満を再確認したイルカは、ためいき混じりに空の銚子をあおった。
見つめるカカシはそのためいきにも動じず、銚子をテーブルに戻してまた続ける。

「俺は本気になりたくないんですよ、イルカ先生。」

なにを、いきなり。
思わずそう問いそうになる自分を抑えて、イルカはじっとこちらを覗き込む両目を見つめ返した。

「それなら、あなたは本気にならなければいいでしょう。」

俺は勝手に本気でいますから。
半ば拗ねた響きを帯びてしまった返事にどうやら気分を良くしたらしいカカシはずいと寄ってきて、ねぇイルカ先生、と更に首を傾げて囁く。

「俺は本気にならないですよ、絶対、本当に、本気で本気にならないですよ。」

芝居がかった口調とややこしい言葉と、それから悪戯に緩んだその頬。
不意にミステリアス兼恋人未満の皮が剥がれたような子供じみた色を感じて、イルカは酔いに細めた目を見開いた。
なるほど触れるほど近くに寄った口元は、その両目は、冷静に見れば素直なもので。

「本気で本気にならない、ですか。」

「はい。絶対、本当に、本気で本気にならないです。」

案外俺は甘えられていたんだと思い至って、イルカは苦笑混じりに銚子をテーブルに戻した。
よく笑い、よく眠り、しばしば無言で一夜を過ごす。
この厄介な男の不規則な性格に慣れるくらいに共に居て、もしかすると知らないうちに、それを日常と思えるほどに過ごしていたのか。

「カカシさん」

「なんですか」

「あなたからはいつも嘘の匂いがしますね。」

彼の傲慢を真似てにやりと笑えば、はい、と答える緩んだ唇に呼吸を奪われた。

今、彼を自分のものにする自信があるか、と聞かれれば、首を傾げて何を今更、と笑うだろう。
実にスマートで、不実で不自然。
けれども絶対、本当に、本気で本気。
そして写輪眼の二つ名を持つ彼はついに、狭い我が家に身を寄せた。




Fin.


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