Jus 1 Kiss
「メリークリスマス」
12月24日、23:00。
クリスマスイブ。
古いアパートの前に停まったカマロと、そこにもたれるスーツの男。
サスケは白い息をついて目を細める。
クリスマスの喧騒は、バイト先である小さな書店の曇った窓越しに知っていた。
町に溢れる電飾も、他人事だと横目に見ていた。
けれど目の前に停まるカマロの、赤と白に彩られた車体と、スーツの男の笑顔。
それまでも知らないふりが出来るほど、サスケは冷めた人間ではなかった。
事実としてそれがアパートの入り口を塞いでいるから、という理由もあったけれど。
「そこにいたら迷惑だろ」
声は少しだけ寒さに固まっていた。
店の棚に手袋を置いてきてしまったから、両手はコートに入れたまま。
けれども薄い布越しに吹き込む夜風を避けきれず、指先まで冷え込んでいる。
「上がってくなら、車動かせよ。入り口塞いでるぞ」
少しだけ照れた声色を気付かれてはいないだろうかと、サスケは視線を投げた。
相変わらず口元まで覆うマフラーのせいで、男の顔がよく見えない。
卑怯だ、このウスラトンカチ。心の中で毒づいて、サスケはため息をつく。
覗く目が柔らかく下がっているから、彼はどうやら上機嫌ではあるらしい。
男の名ははたけカカシ。今春まで浪人生だったサスケの"先生"だった男だ。
そしてほとんどきっかり一年前、いま彼が手をつくカマロの助手席で、大学受かったら付き合ってあげるよ、となんともふざけたことを言われた。
その三ヵ月後、サスケは見事大学に合格し、それ以来カカシとは"恋人同士"なのである。
「いや、それが上がれないんだよね」
新学期をとうに過ぎた今でもカカシは相変わらず予備校で冴えない講師をしていて、
サスケも冴えないアパートに一人暮らしを続けていた。
サスケは今でも一体どうしてあんな言葉を真に受けたんだと思っているし、カカシは半分くらい冗談だったよと笑っていて、けれど割合と上手くいっている。
休みが合えばふたりで出かける。出かけなければふたりで部屋にいる。
好きだという言葉を口にする。唇を合わせもするし、身体を合わせもする。
幸せだ、と思っているのは互いに分かっているし、はじまりの適当さなどすでにどうでもいいことになっていた。
「いま、サンタの仕事中で」
「サンタ?」
「ナルトとサクラに、プレゼントを届けに行かないと」
「…大学生にもなってあいつら…」
サスケはコートのポケットの中で、夜風に凍えた両手を握った。
懐かしいクラスメイトの名前を聞きながら、それでも上がっていけよと、いや上がっていくよと言われるのを待ってしまう。
柄にもない。けれど、クリスマスだ。
アパートの入り口を塞ぐ恋人とその愛車が去っていくのを平然と送れるほど、サスケは冷めた人間ではなかった。
どうしようかと視線を迷わせた先で、カカシがにっこりと笑う。
表情でなく、気配で分かる。
「待ってたんだよね、プレゼントが来るの」
サンタクロースを自称するその男は、愛車の運転席に向かいながらサスケを手招いた。
「乗りな、プレゼントのサスケくん」
カカシの愛車は相変わらず擦り傷の多いカマロで、サスケの指定席は助手席。
苦笑しながらもそこに滑り込んだのは、夜気の冷たさから逃げるため。
決してサンタクロースのプレゼントになるためではなかったし、ましてや一年前と変わらずサスケを無理やり自分の隣に引き寄せる男と共に過ごすためではないのだ。
そんなわけない。そう自分に言い聞かせるように呟いてから、サスケは助手席のドアを閉めた。
途端に密閉された空間は夜風の入る隙もなく温かい。
「あいつら、どこで待ってる?」
「ナルトんち」
アパートの横の狭い路地を見回すカカシを横目に、サスケはコートから両手を出した。
凍えていた指先が、じんと痺れて温まる。
パーティーなんて、と言おうとしたけれど、緩む口元を抑える自信がなくてやめた。
カカシはそれを知ってか知らずか、いまどきのサンタはトナカイよりカマロだよねぇと笑ってハンドルをきる。
あんただけだろと呟けば、俺がサンタだからいいの、と真剣に返された。
「メリークリスマス、サスケ」
「…メリークリスマス」
柄にもない。けれど、クリスマスだ。
サスケは今日何度目かの言い訳をしながら笑う。
クリスマスだ。少しくらいは祝ってみてもいい。
12月24日、23:24。
クリスマスイブ。
古いアパートの横をすり抜けるカマロと、サンタクロースとプレゼント。
そっちの道は遠回り、と教えるトナカイもいないまま、エンジン音が響いた。
Fin.
メリークリスマス@2008
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